第28回「中国・女文字の世界」
開催概要
日時 | 15:00〜17:30(開場14:30) |
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会場 | モリサワ東京本社 9F(東京・飯田橋) |
ゲスト | 遠藤織枝さん(日本語研究者) 何艶新さん(女書継承者) |
参加費 | 1000円(お茶つき) |
定員 | 60 名 |
内容
中国南部・湖南省の,少数民族瑶族と漢族が混じり合って暮らす地域に,世界的にも極めて珍しい,女性だけに継承され,使われてきた「女書」という文字(ここでは女文字〔おんなもじ〕と呼ぶことにします)がありました。女文字は,主として漢字を元に作られた表音文字で,約450字(遠藤調査による)文字からなります。一つの字が(意味とは関係なく)一つの音節を表し,土地の言葉を自由に書き記すことができます。
女文字はこの地の女性の暮らし・人生と密接に結びついており,結交姉妹(1)へ贈る手紙や扇,三朝書(2)などに,思いを歌にして綴られました。また,この文字で長い自伝も書かれました。女文字は,女性が漢字を学ぶ機会を与えられなかったなかで創案され使われてきたと考えられています。
今回は,日本における女文字研究の第一人者,遠藤織枝さんと,特別ゲストとして女文字の《最後の継承者(3)》である何艶新さんをお招きし,実演を交えて女文字の世界に迫っていきます。はるばる来日される何さんの筆記と朗唱をぜひお楽しみください。
(1) 結交姉妹(けっこうしまい)はこの地域の風習で,血縁のない二人以上の娘たちが姉妹の契りを結ぶもの。実の姉妹以上に親密な関係となる。
(2) 三朝書(さんちょうしょ)は結婚三日目に,結交姉妹や母,おば,実の姉妹などから新婦に贈られる手作りの冊子。女文字で歌が書かれる。
(3) 結交姉妹と女文字で手紙をやりとりするなど,伝統的な使い方をしてきた方はすべて鬼籍に入られました。何さんは漢字教育を受けた世代ですが,子供の頃に祖母から女文字を教わっており,40 年の歳月ののち,研究者と出会って記憶を取り戻しました。このように伝統的な環境で身に付けた方は,現在は何さんお一人と考えられています。近年に養成された“継承者”は,5,6 人はいます。
会場協力:(株)モリサワ
ゲスト
プロファイル
遠藤織枝(えんどう おりえ)
1938年生まれ。日本語教育・社会言語学専攻。1993年日本語教育の一環として日本語教員養成のため,北京大学で教育実習をしているときに,女文字を書いた扇子と三朝書に触れ,その美しさに強い衝撃を受ける。それ以来毎年のように現地を訪れ,この魅力的な文字とそれを創った女性たちの実像を追い求めている。
女文字についての著書に,『消えゆく文字 中国女文字の世界』(共編著),三元社(2009),『中国女文字研究』明治書院(2002),『中国の女文字』三一書房(1996)がある
何艶新(か・えんしん)
1939年生まれ。10歳のころ祖母から女文字を習った。そのころはなんでも書けたし歌も作れた。その後学校へ行き漢字を習ったので,女文字はまったく使わなくなり,すっかり忘れていた。1994年8月遠藤が江永県に調査に行った時出会い,それがきっかけで,女文字の読み書きを再開した。実際に使った女性から習得した最後の伝承者と言える。