電子書籍の組版を考える

「はじめに」司会・道広勇司(文字の学校)

本日は、シンポジウム「電子書籍の組版ルールを考える」にご参加くださいまして、ありがとうございました。パネルディスカッションをまじえまして、皆さんと今回のテーマについて考えていきたいと思います。ひとつお断わりします。副題に「新たな組版ルールを求めて」とつけておりますが、今日は組版ルールの話を大きく逸脱することになると思いますので、ご了承ください。(会場笑い)

今回のテーマである「電子書籍」にもいろいろありますが、固定レイアウトと動的レイアウトに大きく分けて、今回は動的レイアウトのもの、いわゆるリフロー型と呼ばれるものだけを扱います。

動的レイアウトというのは、文字サイズや行間・書体などが変えられるということですね。その端末の上で動的にその場でレイアウトが行われる、と。

電子書籍というのは何かというと、電子的な書籍、つまり電子的に書籍を真似たもの、模倣したものですよね、たぶん。

では、何を真似したかというと、例えばウェブの場合はページ単位ですが、電子書籍の場合は、カタマリつまりパッケージで流通しています。これが本の真似ですね。しかも表紙まであったりするんですねえ! そして中味が、同じ大きさの長方形つまりページがばーっと並んだものでできている。しかも、なんとその四角形、つまりページに左右の区別があったりして、かなり本の模倣になっているんですね。そのうえ、アニメーションによってそのページがめくれたりする。

ただし、単なる模倣ではなく、魔法があります

どんな魔法が?

  • 質量:ゼロ
  • 体積:ゼロ
  • 木材パルプ:不使用
  • 輸送時の CO2 排出:ゼロ
  • 注文してからの待ち日数:0 日
  • 品切れ無し
  • 黄ばみ、紙魚なし

なんとなく地球にやさしかったり。

ま、それはおいといて(笑)。

どんな魔法が?

  • 他の箇所に飛べたり(ハイパーリンク)
  • 検索できたり
  • 拡大できたり(視覚上の問題を解決)
  • 写真がきれいだったり
  • 音声・動画が付いていたり
  • 読み上げてくれたり
  • インタラクティブだったり

などなど。

ハイパーリンクで他の箇所に飛べたり、検索ができたり、拡大ができたり、カラーで写真がきれいだったり、音声・動画が付いていたり、読み上げてくれたり、何かインタラクティブだったりするわけですね。

ところで組版ってなんだったかっていうと、文字であるとか、画像だとかそういうものを平面上に並べたものですね。で、ここ

組版ルール

  • 禁則(行頭/行末禁則・分離/分割禁止)
  • 調整
  • 約物前後の空き
  • 和欧混植・異サイズ混植
  • 表記ルール(記号の使い分けなど)
  • ルビ・圏点
  • 注(傍注・脚注・割注など)

などなど。

にあるように,いろんなルールがある。

代表的なのは禁則とか空きの取り方でしょうか。なんでこんなルールがあるかというと、読みやすさとか見栄えの良さを保つためでしょう。それは電子書籍も同じなんじゃないか。

ただですね、これ

禁則を守った例

は非常にきつい禁則を適用した例なんですけども、見た目もよくないし、読みやすくもないわけです。これはまあ、組版ルールが適切でなかったのか、と。

あ、みなさん、「シェーッ!」って分かります? こういうのです(実演)。若い方はご両親にお尋ねください。(会場笑い)

でまあ、電子書籍の組版を考えるにあたって、

いろいろな視点

  • 紙の本の組版ルールはどこまで実現できるか
  • 電子書籍に合ったルールは必要か
  • ルール以前に、電子書籍ならではの表現方法は
    • 読みを示すのにルビ以外の方法
    • 本文への補足などを示すのに、挿入注・頭注・脚注・傍注・後注など以外の方法

紙の本のルールはどこまで実現できるのかとか、電子書籍ならではのルールはあるのかとか、ルールじゃなくて表現方法として電子書籍ならではのものがあるのか、といったいろいろな視点があるわけですね。

そして、印刷物での組版ルールも、このように、

印刷物の組版ルール

  • 書籍に限っても、ルールはさまざま
    • 出版社・印刷所ごとのルール
    • (ハウスルール)
    • ジャンル、縦/横組、段数、行長などによる違い
  • 見出しと本文でも違う
  • 新聞なども含めればもっとバリエーション

いろいろであって、一つではないわけですね。

さて、今日の議論としては、別にこの場で決めましょうとか、結論を出しましょうとは別に考えてなくて、みんなで考えるための出発点になれればいい、と。電子書籍の特性はなんでしょうか、紙の本のルールってどうだったっけな、電子書籍のルールはどうかな、ルールだけじゃなくて、表現方法も考えてみます、というような感じで進行したいと思います。

ではこれからパネリストを順にご紹介して、それぞれ今回のテーマについてお話をしていただきたいと思います。

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