第5回「正字体の正体とは!?」
開催概要
日時 | 2007年2月10日(土) 15:00~17:30(開場14:30) |
会場 | バルト(東京・阿佐ヶ谷) |
ゲスト | 大熊肇さん(グラフィックデザイナー・書家) |
参加費 | 1000円(ワンドリンクつき) |
内容
漢字には,同じ意味と読みを持ちながら,「島」「嶋」「嶌」「」のように異なる形(字体)を持ったものが少なくありません。これらは本質的には同じ漢字とみなせますが,漢字ごとに,種種ある字体の中で一つだけが「正字体」と呼ばれ,“正式なもの”とされています。正字体はいったいどうやってできたものなのでしょう。正字体に限らずさまざまな漢字の字体の成立には,篆書・隷書・楷書といった書体の発展の歴史が関わっているようです。印刷技術の関与も見逃せません。
今回は,子供の頃から字体差に興味を引かれてきたというグラフィックデザイナーで書家の大熊肇さんをゲストにお招きし,漢字の字体をみんなで考えます。
ゲスト
プロファイル
大熊 肇(おおくま はじめ)。
幼い頃から書道を学ぶ。雅号図南(トナン)。波瀾万丈の日々を送った後、印刷文字に興味を持つ。桑沢デザイン研究所リビングデザイン研究科グラフィックデザインコース修了。
[ウェブサイト]TONAN'S WEB
[ブログ]tonan's blog
ゲストより
幼い頃から書道を学んでいます。小学生や中学生の頃は、書道の先生が書いてくれたお手本を見てお習字をしますが、高校生になると、昔の中国の石碑の字などを見てそれを書くようになります。
あるとき中国の唐時代の楷書が日本の学校で習った字体と違うことに気づいて疑問を持ったんです。「学校で習った字はおかしいんじゃないか」と。さらに印刷書体の字体が伝統的な楷書とも学校で習った字体とも違うものがあることに気づきました。以来、これらの字体の差が気になってしかたがありません。
たとえば、「保」という字は、古くは「人」が「子」を背負っている形で書かれていて、子には産着が曲線で描かれて添えられています。旁は「子」+「曲線」であって、「口」+「木」ではありません。これは篆書も隷書も楷書もかわりなくて、正字でさえも「子」+「点」で書かれています。「口」+「木」で書かれるのは「康煕字典」からです。「康煕字典」の字体は、字源から見ても字体の変遷から見ても誤っているのは明らかで、義務教育で学ぶ字体も誤っているとおもいます。
このような例をいくつかみなさんと一緒に考えてみたいとおもいます。
終了報告
今回,大熊さんはまず,字体/書体/字形/字種といった用語の説明と,それに対する大熊さんの考え方から話を始められました。次にご自身で作成された詳しい字体・書体年表をたどりながら,秦の時代に始皇帝によって秦の字体に統一された文字が,300年の時を経て『説文解字』にまとめられ,その字体が唐代に無理矢理篆書から楷書にされた,という正字体成立の歴史を振り返りました。また後半では,いくつかの文字を例に取り,それらが時代や書体によってかなりの揺れを持ちながら変遷してきたという事実を,豊富な実例を挙げながら解説され,「正字体」に対する参加者の思い込みを鮮やかに覆しました。
大熊さんの字体・書体年表は,こちらからダウンロードできます。
参加者の声
「漢字の本家の中国では,昔から確固とした字体があったのかと思っていましたが,いろいろ揺れ動いていたことが分かって面白かったです」
「字体や書体の歴史は,もっと広く学校で教えた方がいいのではないかと思いました」